ガリ勉くんに愛の手を
「ここ辞めて何してたんや?」

おじさんには東京に行った事もオーディションを受けた事も話していなかった。

(今さら言っても仕方がないしな…)

僕が答えに迷っていると、

「お前、まさか……?」

おじさんがとうとう気づいたようだ。

「おっちゃん、黙っててごめんなさい。」

「やっぱり、戎橋の工事現場で働いてたんか?」

ガクッ。

思わず椅子から落ちそうになった。

「お前、お坊ちゃんのくせにあんな重労働やって。」

もはや勝手な妄想を止める事はできない。

「おっちゃん、全然違うわ。ベンがドカタする訳ないやん。」

佐奈が僕の代わりに答えてくれた。

「そりゃ、そうだ!ハッハッハ~。」

なんだ、最初から冗談だったのか。

知っているのか知らないのか、おじさんにはこのまま黙っておく事にした。

そうこうしているうちに入口のドアがまた開いた。

「いらっしゃい!」

お客さん?

「こんばんは。」

僕は入口か入ってくる青年を見て思わず立ち上がった。

「みっちゃん!?」

「おっ、勉!?久しぶりやな~。」

塾に行かなくなって満男と会うのは本当に久しぶりだ。

僕はうれしくて入口まで出迎えに行った。

「さぁ、早く中へ入って。」

「お、おう。」

満男はなぜか中に入ろうとはせず、外を気にしているようだった。

「どうしたの?」

「う、うーん。ちょっと連れがいてんねん。」

「連れ?」

カウンターで飲んだくれていたおじさんが急に割り込んできた。

「みっちゃん、もしかして彼女か?」

満男の顔が急に赤くなった。

どうやら図星のようだ。
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