ガリ勉くんに愛の手を
「おっちゃん、じゃあ乾杯だけ。」

「オォー、それでこそ男や!」

「ベン、大丈夫?」

「はい、多分…」

佐奈はおじさんに逆らえず、ビールを二人に渡した。

ジョッキを合わせて…

「それじゃ、乾杯!」

「おっちゃん、それを言うんやったらメリークリスマスやろ?」

佐奈が横からチャチャを入れる。

「なんでもええから早く飲もう。」

おじさんは待ち切れず、ビールを一気に飲み干した。

そして僕も……

グイッ。

(ん?!に、苦い。)

おじさんがおいしそうに飲んでいるからすごくおいしいものだと思っていたのに…

「ベン、どうや?ウマいやろ?」

「ま、まぁ。」

冷汗をかきながら一生けん命飲む姿を佐奈がカウンターで心配そうに見ている。

(ここは男らしくドンと構えなきゃ。)

今にも倒れそうなのに平気なフリをして見せた。

それから客のいない店で3人だけのクリスマスパーティーを始めた。

おじさんは相変わらず飲むペースが速く、段々酔いが回って来たようだ。

「ベン、お前ちょっと見えへん間に体ごっつなったな。」

「えっ?!そうですか?」

おじさんは僕の鍛えた腕を確かめるようがっちりつかんだ。

(おっちゃんの言うとおり。メガネして髪をまとめててもベンは以前とは全然違う。

あの時、ベンに抱きしめられて初めて気づいた。

ずっと弱々しくて頼りないと思っていたのにいつの間にかたくましくなって…)

佐奈はその時の感触を思い出しながら僕に熱い視線を送っていた。
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