ガリ勉くんに愛の手を
僕の姿が見えなくなってから、佐奈はゆっくり店へと近づいて来た。

「おっちゃん。」

聞きなれた声。

「佐奈?!来たんか。
よう来たな~。」

うれしそうに佐奈を迎えいれたおじさん。

「おっちゃん、迷惑かけてごめんな。」

「何を言うてんねん。
絶対戻ってくると信じてたで。」

「そやけど、なんでベンが手伝ってるの?」

おじさんの顔がピクっと動いた。

「いやぁな~、お前が戻って来るまでベンが手伝うって言うから…」

不自然な態度…

「違うやろ、おっちゃんが嘘ついたらすぐわかるわ。
ベンに無理やり手伝わせてるんやろ?!」

図星だ。

「まあ、確かに手伝わせてるけどな、言い出したのは、ベンやで。
佐奈の為に何か手伝いたいってな。」

「そんなん言うても勉強も忙しいのにアルバイトしてあの体やったら倒れてしまうやん。」

「佐奈、心配するな。アイツ意外と頼りなるで。

ホンマにがんばってるよ。お前の為に必死でな!」

(うちの為に…?)

「あんな事になってアイツもお前をホンマに心配してるんや。

あの時、ベンがお前を病院に連れて行ったんやで。

普段のアイツからは想像でけへんぐらい格好よかったな~。」

(…そうやったんや。)

「ベンもうちの事みんな知ってるんや。」

急に佐奈が黙りこんだ。

(あの姿…見られた…!)

「佐奈、早く忘れろ!
お前はまだ若いし、絶対乗り越えられる。

早く店に出て来い。ベンの為にもな。」

「わかってる。
うちもそうしたいけど……」

悲しそうな表情を見せる佐奈。

「自信ないねん。
ベンの顔まともに見られへん…」


佐奈の目に涙が潤んでいる。

「あいつはずっとお前をここで待ってる。
なあ、佐奈。」

おっちゃんの優しい言葉を聞くとまた弱い自分に戻ってしまう。

(おっちゃんに心配かけたらあかん。)

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