ガリ勉くんに愛の手を
店は今日もお客が大入。

商売繁盛。

おじさんのうれしい悲鳴が聞こえてきそうだ。

でも、僕は全然うれしくない。

(はぁー、ちょっと休みたいな~
なんでこんなにお客が来るんだよ?!)

別に僕が得する訳でもなし……

ブツクサ文句を言っている時だった。

僕の鈍い動きにたまりかねたか、誰かがおぼんを片手に空いているテーブルの上をテキパキと片づけて始めた。

(誰?)

最初は誰なのか全くわからなかった。

(まさか……)

「佐奈さん?!」

バッサリ切った髪。

僕は驚きのあまり口を開けたままその場に立ちつくしていた。

「ちょっと、何ボーっとしてんの?忙しいんやから、もっとテキパキ働きや。
バイト料あげへんよ。」

(やっぱり…佐奈さんだ。)

やっと佐奈が元気を取り戻してくれた。

僕はうれしくてたまらなかった。

でも、一番喜んでいるのは、おじさんだろう。

「おい、佐奈!ベンに偉そうな事、言われへんぞ。
お前も休んだ分これからこき使ってやるからな!」


「ひぇー勘弁して~!」

冗談も言えた。

(おっちゃん、ホンマにありがとう。今、優しくされると涙が出そうになるから…)

みんなが普段通り変わらず出迎えてくれた事が何よりもうれしかった。

そんな佐奈にちょっとは成長した姿を見せたくて僕は張り切ってしまった。

「ガッチャーンッ!」

またもや、お皿を…

「もう、ベン!!」

「す、すんません。」

「お~ベンもいつの間にか大阪弁、自然と出るようになったやんか。」

なんて、ひやかすおじさん。

(やっぱりうちのおる場所はここしかないわ。
ありがとう、おっちゃん…ベン。)

こんな事、照れ臭くて直接言えない。

佐奈は心の中で僕たちにいっぱい感謝していた。

佐奈が帰ってきた事で僕はようやくバイトから解放された。

サボっていた分、また勉強がんばらないと…

母親にもずいぶん心配かけたし、当分は寄り道せずに真っすぐ家に帰る事にした。

もとの平凡な生活に戻りつつあった。
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