誓~天才演技者達の恋~
春なのに、ユリアの身体には、冷たい風があたる。
卓也は、相変わらずの無表情だった。
さっきまで見せてくれた笑顔は、ドコに行ってしまったんだろう?
「そんなの...可笑しいです」
「.......」
「どうして、どうして本気の恋をしないんですか!?」
卓也はユリアから視線を外し、桜の花びらを捕まえようとする。
しかし、風に乗っている桜を捕まえられずに、卓也は舌打ちをした。
「本気の恋。してたよ。したかったよ。でもさ...そいつが死んだら意味無いんだよ」
「えっ!?」
「俺の好きな子は、死んだ。俺との約束を破って、死んだんだ」
ユリアの頬に、冷たい雫が落ちていく。
卓也もいきなりの涙に、驚いていた。
「ごめん...なさい。私、知らなくて...」
「いや...その....」
「ごめんなさい卓也!!
本当にごめんなさい....」
『ごめんなさい卓也!!
壊してごめんなさい....』
卓也は出していた手を引っ込める。
ここで手を出したら、すべて元に戻らなくなる気がして。
重ねてはいけないと分かりつつも、重ねてしまう。
「百合亜...」
泣きじゃくる時の仕草もすべて、重なっている。
ユリアは地面に座り込んで、息を整える。
「ごめんなさい、卓也くん。私...無神経すぎる事、言っちゃった」
「俺の言い方も悪かった。由梨に関しては、いっか決着をつけなきゃいけないんだ。天国にいる彼女のためにも」
「それに、少しばかり嬉しいんだ。“世間”に忘れられた彼女を思って、泣いてくれるなんて。お前もファンだったのか?」
卓也は知らない。
ユリアが記憶喪失だと。
卓也は知らない。
ユリアが百合亜自身だと....。