誓~天才演技者達の恋~


春なのに、ユリアの身体には、冷たい風があたる。

卓也は、相変わらずの無表情だった。

さっきまで見せてくれた笑顔は、ドコに行ってしまったんだろう?


「そんなの...可笑しいです」

「.......」

「どうして、どうして本気の恋をしないんですか!?」


卓也はユリアから視線を外し、桜の花びらを捕まえようとする。

しかし、風に乗っている桜を捕まえられずに、卓也は舌打ちをした。


「本気の恋。してたよ。したかったよ。でもさ...そいつが死んだら意味無いんだよ」

「えっ!?」

「俺の好きな子は、死んだ。俺との約束を破って、死んだんだ」


ユリアの頬に、冷たい雫が落ちていく。

卓也もいきなりの涙に、驚いていた。


「ごめん...なさい。私、知らなくて...」

「いや...その....」


「ごめんなさい卓也!!
本当にごめんなさい....」

『ごめんなさい卓也!!
壊してごめんなさい....』


卓也は出していた手を引っ込める。

ここで手を出したら、すべて元に戻らなくなる気がして。

重ねてはいけないと分かりつつも、重ねてしまう。


「百合亜...」


泣きじゃくる時の仕草もすべて、重なっている。

ユリアは地面に座り込んで、息を整える。


「ごめんなさい、卓也くん。私...無神経すぎる事、言っちゃった」

「俺の言い方も悪かった。由梨に関しては、いっか決着をつけなきゃいけないんだ。天国にいる彼女のためにも」

「それに、少しばかり嬉しいんだ。“世間”に忘れられた彼女を思って、泣いてくれるなんて。お前もファンだったのか?」


卓也は知らない。

ユリアが記憶喪失だと。

卓也は知らない。

ユリアが百合亜自身だと....。
< 120 / 252 >

この作品をシェア

pagetop