誓~天才演技者達の恋~

――パリーンッ

「あっ....」


下に落ちて粉々になったコップ。

明日香は、賢斗の下に落ちた破片を踏み潰した。


「あ、すか?」

「気安く明日香なんて呼ばないで!」


明日香は店員がほうきを持ってくるのを止めた。

「いま、大事な話してるから」と...。

賢斗はさらに粉々になった破片を見つめる。


「別れて」

「.........」

「ユリアと別れてッ!!」


はたから見れば、別れ際の恋人達だろう。

浮気相手と別れろ!と言っているだけに見える。


「あんたは卑怯だわ」

「..............」

「ネックレスを、あたかも自分で用意したみたいにして。
自分が初恋相手ですって、言ってるなんて...。

記憶喪失のをいいことに...。
最低よッ!!」


明日香のことを怪訝そうに見る客。

でもそれが、霧島明日香だと気づくと、その視線を止める。

それが明日香であるし、明日香の力とも言えた。


「百合亜が思い出したら......どうなるの?どうするつもりなの?」

「..............」

「なんとか言いなさいよ!!」


明日香は賢斗のネクタイを掴んだ。

それでも賢斗は何も言わない。

明日香は舌打ちすると、伝票を持ってレジへ向う。

壱万円札を出すと「コップの分も入ってるから。おつりいらない」という。


「でもお客様!!」

「そんなにおつりを渡したいなら、あそこで死んでる彼に渡しなさい。

もう、私が彼と話すことは一生涯無いけれど」


明日香はそう言うと、店を出る。

店員は賢斗を見つめると、壱万円札を握り締めた。
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