誓~天才演技者達の恋~

確かにそうだ。

これで、ユリアが百合亜に戻った時、後悔も何も無い。

卓也が龍牙によって立ち上がった瞬間、百合亜の病室のドアが開いた。


「........」

「........」


龍牙は気まずそうに笑うと、卓也の傍から離れようとする。


「変な気遣い止めて」


するとそこに、百合亜の一言が。

龍牙は卓也と百合亜の顔を見合う。


「ひ、久しぶりだな。百合亜...って...」

「........」


菊花ユリアの時は、何となく話し易かったのに、今は言葉が出てこない。

“久しぶり”は一体、誰に言っているのだろう。


「それは、私が白野百合亜と知っていたから?」

「....」

「菊花ユリアよ。私は菊花ユリアよ」


拳をつくって、顔を歪めている百合亜。

百合亜自身も、何を言っていいのか分からないでいた。


「私は、菊花香織という一人の女性に拾われたの...アメリカで玉突き事故に巻き込まれて...記憶を失って....それでも、事故の前は...」

「百合亜」


親を失った。

記憶を失っていた。

その間に、多くの人を傷つけてしまった。

由梨も卓也に本気だった。

だけど百合亜のせいで、彼女は世間の笑いものになってしまった。


「うわぁぁぁぁん」

「.....」

「あぁ....うわぁ...」


子供のように泣きじゃくる百合亜。

無理も無い。

数分前までは、菊花ユリアとして、Yuriaとして

生活してきたのだから..。
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