誓~天才演技者達の恋~

“ゆりあ”にとって。


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「何考えてんのよッ!」


明日香の手のひらが、卓也の右頬に。

ハデな音と共に、香織や室井、由梨や賢斗らは顔を歪めた。


「百合亜がいなくなって一週間目。百合亜がいなくなってから二日目に帰って来て、正解だったわ」

「........」

「あんた、百合亜に何、言ってんのよ!!」


ユリアが百合亜に戻ったその日。

卓也のあの言葉を最後に、百合亜は病院から姿を消した。

記者やファン、そして病院関係者の監視を潜り抜けた。


「どっちかを選べなんて、最低にもほどがあるわ」

「明日香ちゃん、卓也の体も体だ。少し落ち着いて」

「いやに香織さんは冷静ね。自分の子じゃないからかしら」


賢斗は明日香を睨んだが、明日香の言った事は正論に近い。

香織は養子という形でさえ、とっていなかったのだから。



「探すにも、携帯が繋がらないんじゃ、どうしようも...」


その時、それぞれの携帯が光り出した。

携帯を一斉に開くと“ゆりあより”と表示されている。


「ひらがな...で?」

「ユリアとも、百合亜とも、Yuriaとも書けないから...ゆりあ」


室井の言葉に、卓也の病室にいる人間は顔をゆがめる。

明日香は唇を噛みながら、受信メールを開いた。

そこには遺書には遠く

最後の言葉に近い言葉が、長々と書かれていた。


『私は、卓也も賢斗も選べません。

でも、お世話になった皆さんに会うのも辛い。

だから、逃げさせてください。
今どんなに頑張っても、どんなに探しても

自分の存在理由が分かりません。

白野百合亜とも、菊花ユリアとも名乗れません。
ましてはYuriaなんて...。

だからこれからは、誰でも無い人間で生きていきます。

それが私の願いです』
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