Pianissimo
02
5月中旬――…。

西原高校は、6月下旬に体育祭がある。

他の学校は9月にあるからかぶらないように、らしい。

別にかぶってもいい気がするけど。

「それでは、種目決めをしたいと思います。必ず、1人1種目は出るように」

学級委員の男女2人が仕切っているのを私はぼーっと見ていた。

二人の後ろにある黒板には各種目の名前が並べられている。


…私は走るの苦手だから、玉入れあたりにしとこうかな。

美樹も玉入れがいいって言ってたし。

そうと決まれば早速名前を書きに行こうと席を立つ。


チョークを持って名前を書こうとした所で、学級委員の男子の方に手を掴まれた。

「…えーっと…」

「千秋だよ。本田千秋。まさか覚えてられてないなんて思わなかった」

「いや、そうじゃなくてね、本田。この手は一体…?」

そう言うと本田は「ああ、そうだ。ごめんごめん」と言って手を離した。


「真子ちゃんは足早いよね? ってことでリレーお願いしたいんだけど…」

「えっ、ちょ、無理無理無理無理! 私遅いって!」

必死で抗議するが全く聞いてくれない。

寧ろクラスの人達みんな「そーだそーだ」と言って私に反抗の隙を与えない。

畜生あいつら、覚えてろよ。

しかも私の事“真子ちゃん”だなんて馴れ馴れしい奴…。


「だってさー…。この記録、見る限りだとこのクラスでぶっちぎりの1位だよ? 7秒37ってさ…。遅くないよね。むしろ速いよね」

言い返せなかった。

実際、クラスで一番のタイムだったからだ。

…全く知らなかった。


「…リレーは嫌。何か別の種目なら、いい」

これだけは絶対譲らない。

リレーとか、もう二度とあんな思いなんてしたくない。

「うーん…。でも、リレーやってくれる人いないんだよ…各クラス二人ずつだから、1人じゃないし…」

ぐぬぬ…手強い奴め…。

本田は「頼む!」と両手を合わせて言ってきた。


ど、どうしよう…。
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