oneself 後編
夏休みも残すところ後1日となった。


その日、あたしはラストまで働いて、いつものように翼と居酒屋で過ごした後、哲平のお店へと向かった。


昨晩ハル君と喧嘩をした翼も一緒だった。


月末の土曜日という事もあり、こんな時間でもミナミには人が溢れている。


店前で騒いでいる若い集団。


路上に座り込む酔っ払ったサラリーマン。


携帯を片手に急ぎ足のキャバ嬢。


通り過ぎていく人達を眺めていると、隣で翼が「あっ…」と、小さな声を上げた。


「どうしたん?」


その場に立ち止まる翼に、首をかしげる。


翼は数メートル先を指さして、低い声で言った。


「あれ、ハル」


その方向に目をやると、腕を絡ませて歩く、スーツ姿の男と白いワンピースを着た女の姿があった。


仕事とは言え、好きな人が自分以外の誰かと腕を組む光景なんて見たくない。


翼はしばらくそれを黙って見つめていた。


彼らの姿が見えなくなり、翼は「ごめん」と呟くと、ゆっくりと歩き出した。


「あの子がハルの本彼って噂なんだよね」


あたしの方は向かずに、前を向いたまま、翼はそう言った。


「しかも一緒に住んでるらしい」


あくまで噂。


でも、何て言ったらいいのか分からなかった。


黙っているあたしに、翼はそれ以上何も言わなかった。


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