最後の恋


「正直よくは覚えてないけど…私もよかった。椎名が研修資料忘れてくれて」


きっと、人生はいろんなタイミングの連続。

あの研修会だって本来なら私ではなく同じ部署からは同期の笹野君が研修補佐を担当するはずだった。

それが、確かインフルエンザに罹ったとかで3.4日休んでて。

だから当日急に係長に指名されて、渋々研修会の手伝いをしていた。


そこでの小さなきっかけや、この前大原君が早川さんを食事に誘った時に偶然居合わせたこと。

そして何故か六人で食事することになって。

それから…



「どしたん?莉奈さん」

「えっ?」

「いや、ボーッとしてるから」

「あぁ。何か色々と思い出しちゃって」

「色々?」

「うん。こうして私達が今一緒にいるのも小さなきっかけのおかげなんだなって思ってさ」


もしあの時、笹野君が予定通り出勤していたら、私達はきっと今ここにはいない。

名前も知らないままだったかもしれない。


もしあの時、エレベーター前で早川さん達に捕まらず帰ることができていたら。

距離が縮まることも、付き合うようなこともなかったと思う。


一分一秒で人生は変わる。

訪れるタイミングも変わる。


今こうしていられることは、奇跡みたいなものなんだ。

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