最後の恋


「終電ギリギリなんでそろそろ帰りますね」


しばらく水を飲みながらゆっくりしていた椎名は日付けが変わった頃、寂しそうにそう言って立ち上がった。


「大丈夫?」

「うん、もう酔いもさめた」

「そう、良かった」


コートを着て帰る支度をする椎名の後ろ姿をみていると、何だか寂しい気持ちになった。


玄関に向かって歩いていく椎名は靴を履きながらこっちを振り返った。


「ほんまはもっと一緒にいたいけど…今日は我慢する」

「ふふっ、偉いじゃん」


笑いながら私が答えると、椎名は両手を広げて私をじっと見つめた。


「きて」


年下のくせに、いきなりの可愛い命令。

だけどそれが嬉しくて。


私は椎名の広げた腕にすぐに包まれた。



「好きって言って」

「好きだよ」

「もう一回」

「ふふっ、好きだよ」


そう答えると、椎名にギュっと抱きしめられた。


そしてその腕が離れると、次は私の頬に両手で優しく触れた。


顔をそっと持ち上げられ、目と目が合う。


真っ直ぐに私を見る椎名の目に、何だか吸い込まれてしまいそうだった。


「好きやで、俺も。大好き」

「うん…」


至近距離すぎて心臓がバクバクだった。


「おやすみ」

「お…やすみ」


私がそう言うと、椎名はそっと私にキスをした。


付き合って二週間。

手を繋いだり抱きしめられたことはあったけど、キスされたのは初めてだった。


「じゃあ、また…」

「うん、また…」


ドキドキしながら玄関先で椎名を見送った私は、ドアが閉まった途端に力が抜けてその場に座り込んでしまった。


何だか熱い。

顔も体も熱くなっている。


そっと唇に触れた。

さっきのキスを思い出すと、しばらくドキドキが止まらなかった。

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