最後の恋


「あっ…」

「あっ……」



それは、翌日金曜日の朝だった。


ちょうど駅の改札を抜けようとした時、隣の改札を偶然にも椎名が同じタイミングで通っていて。



「おはようございます」

「おはよう」

「今日も…寒いですね」

「うん、寒いね」

「早く暖かくなってほしいですね」

「そうだね……もう寒いのは飽きたよね」



そして、何故か私達は並んで歩きながら、会社までの道のりを進んだ。


隣を歩く椎名をチラッと横目で見ると、同じように椎名もこっちを見ていて、目が合った私達はお互い思わずパッと目を逸らした。


こんなにも近くで顔を見るのは久しぶりだった。


会社内でもほとんど顔を合わせることはなかったし、時々見かけてもいつも距離
があった。


だからこんなに近くに椎名がいることは、私が椎名をひっぱたいたあの日以来のことだった。


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