【短編】咎(とが)
ごしごしごし。頭が消えた。

ごしごしごし。肩が消えた。

ごしごしごし。両腕が消えた。

ごしごしごし。胴体が消えた。

ごしごしごし。腰が消えた。

ごしごしごし。両足が……、消えた。

ついでに、自転車も消えた。

そこにいた「おじさんと自転車」は、完全に、消えた。

……、

消えた?


消滅。削除。消去。消失。抹消。消散。消亡。排除。除去。除滅。削去。


真っ白だった頭の中が、ぐるぐる回りだして。

真っ黒だった心が、ばくばく動き出して。

わたしは、我に返って。

「……あ、あああっ、あああ!」

叫んだ。

膝から折れて、また道のど真ん中に座り込んで。

子供が、大人が、高校生が、主婦が、サラリーマンが、怪訝な顔で、わたしの横を通り過ぎていって。

「じょ、除消!」

わたしは除消の名を、目に溜まる涙が溢れるのにも構わず、呼んだ。

「あ、あの人は、今の人は、どこに、どこにいっちゃったの?」

除消は、喜びもせず、怒りもせず。

哀しみもせず、笑いもせず。

そこに何の感情もない表情で、わたしを見つめながら。

「消シタンダカラ、ドコニ行クモネエダロ」

とだけ、言った。


絶望。そして恐怖。


ただ、ただただ、恐ろしかった。怖かった。震えがとまらなくなった。生きた心地がしなかった。


わたしは。


……、人を。


殺した?
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