恋した鬼姫
セラが城に来て、1週間がたった。
セラが飛ばした鳩は、まだ戻って来ない。

セラは、毎日のように空を眺めていた。

殿様は、セラと過ごすにつれて、セラの虜になっていった。
必ず自分の側から離すことはなかったが、手を出すこともなかった。
何故なら、セラに本気になってはいたが、未だにセラは、殿様に心を開いてはいなかった。だから、セラに避けられることが怖かったからだ。


ある日、城の皆が寝静まった夜、突然の爆発音とともに城にいた人々の叫び声が聞こえた。

セラも慌てて起きたが、障子の影からは、もう真っ赤な炎が見えていた。

その頃、家来を引き連れて、殿様は宝を守らず、足早にセラが寝ている部屋に向かっていた。

セラの部屋の周りは、炎に包まれ、セラは逃げることも出来なかった。セラは、段々息が苦しくなり、立ち上がる力も無くなっていた。

セラが意識を失いかけた時、天井の一部が落ち、黒服に包まれた男が現れた。

黒服の男は、何も言わずにセラを担ぐと、また天井から外に出た。
セラは、意識を失った。


丁度その頃、殿様はセラが寝ていた部屋にたどり着いたが、炎に囲まれ、中に入れなかった。

「水を持ってこい!」
殿様は、家来から水を貰うと頭から被り、炎の中に入ろうとした。

沢山の家来達は、慌てて殿様を止めたがその手を降りおどき、なんの躊躇もなく炎に突っ込んだ。

燃え盛る炎の中、セラを探したが何処にもいなかった。
ふと、天井を見ると刀でくり貫いたと思われる跡があった。

殿様は、急いで炎から脱出すると、家来達に物凄い形相で命じた。
「女が何者かに連れ去られた!見つけ出し、無傷で女を助けよ!そして、連れ去った者の首を持ってこい!」
殿様の叫びは、城中に響いた。


その頃、一滴の水がセラの頬を流れた。気絶していたセラは気づき、ゆっくりと目を開いた。
まだ、頭の中がボーッとしていて、目も霞んでしか見えなかった。

目の前に誰かいる気がしたが、フッと姿を消した。
セラは、また眠りについてしまった。


そして、夜が明けセラの顔に眩しい朝日が照らされた。
その眩しさでセラは、目を覚ました。
セラは、草原の中で眠っていた。そして、近くには牢屋で出会った白い鳩がいた。

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