恋した鬼姫
孤独
セラが草原を見渡すと見たことのある風景だった。
「ここは!」
セラが眠っていた場所は、町から離れたお婆さんの家の近くだった。
セラは、 迷うことなく駆け出した。鳩もセラに寄り添うように飛んで付いてきた。

数分も立たない内に、お婆さんの家が見えてきた。
「お婆さ〜ん!」
セラは、嬉しさのあまり大きな声でお婆さんを呼んだ。

しかし、お婆さんは家から出て来なかった。
セラは、家の前に立つと様子がおかしいことに気がついた。
家は異常な程、静かだった。セラは、胸騒ぎがして慌てて戸を開けた。

家の中は、荒らされたように散らかっていた。

「お婆さん!お婆さん!」セラは、必死に叫び、探した。

そして、お婆さんの寝ていた部屋の戸を開けた。セラが見た光景は、壁に血しぶきの跡とうつ伏せに倒れていたお婆さんの姿だった。

セラは、涙を流し駆け寄った。
お婆さんの背中には、刀で斬られた跡があり、セラがそっとお婆さんの体に触ると氷のように冷たくなっていて、体から流れていた血は、乾いていた。
昨日今日のことではないと、セラは気づいた。

そして、セラは悟った。殿様は、セラとの約束を最初から守る気などなかったと言うことを。
セラは、悔しがった。そして、殿様を憎み、自分の弱さも憎んだ。



セラは、お湯を沸かし、お婆さんの体を綺麗に吹き、髪を整えると真っ白な布でお婆さんの体を包んだ。

真っ白な布に包んだお婆さんをセラは荷車に乗せ、家の裏で燃やした。
燃え盛る炎に、お辞儀をした。

婆やに続き、又しても自分の大切な人が亡くなってしまった。
セラは、もう生きていくことに疲れていた。



セラが家の中で、呆然となり座り込んでいると、お婆さんの部屋で、鳩の鳴く声が聞こえた。
セラが言って見ると、お婆さんがよく繕い物をする時に使っていた針や糸などが入っている箱に、鳩が止まっていた。

セラが手を伸ばして箱を開けて見ると、針や糸などと一緒に、一枚の文が入っていた。
それは、お婆さんがセラへ宛てた文だった。

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