恋した鬼姫
セラは、文を読んで見ると、
(お前さんが、この文を見つけたということは、私はもうこの世にはいないようだね。私は、お前さんに初めて出会えた時に、運命を感じていたよ。老い先短い私に、神様が子を授けて下さったのだと。お前さんと暮らした日々は、とても楽しかったよ。
だけど、何もしてやれなくて、ごめんよ。寂しい思いをさせて、ごめんよ。一緒にいてやれなくて、ごめんよ。
風の便りでお前さんが殿様に、私に手を出さないという条件で捕らわれていると知ったんだよ。
お前さんは、本当に優しい子だよ。
だけど、あの殿様は約束を守るような方ではない。きっと、もうすぐ私に刺客を差し向けてくるだろうよ。
私がいなくなって、もし一人ぼっちになっても泣くんじゃないよ。私は、お前さんの笑顔を好いとる。その笑顔は、元気をくれるからね。
それと、最後の約束事だよ。
必ず幸せになっておくれ。)
セラの文を持つ手は震え、溢れんばかりの涙を堪えた。

何度も繰り返し文を読み続けた。



その頃。
殿様は、家来を引き連れてセラを探しに町に出ていた。
手には、セラの写し絵を持ち、家来達には、手当たり次第に聞くように命じていた。

セラがいなくなって、一晩が過ぎた朝に火は消えたが、おかしなことに爆発音はしたが、何処にも爆発の跡がなく、セラが寝ていた部屋の周辺だけが炎で焦げた跡が合った。殿様は、悟った。セラを拐うのが目的で、騒ぎは猿芝居だったと言うことを。
殿様は、まんまと騙されたことにも腹をたてていた。殿様は、生まれた時からずっと、騙しはするが騙されたことは一度もなかった。


家来達は、町の殆どの人に聞いたが、誰一人としてセラを見た者はいなかった。

殿様は、考えた。何も手がかりはないが、もしセラが行くとしたら、町外れにあるお婆さんの家しかないと思った。

「しかし、殿。あの家にいた老婆は、既に始末しております。」
家来の一人が殿様に言った。

殿様は、家来達と共に大急ぎで馬を走らせた。

殿様の心は、焦りで一杯になっていた。もし、セラに知られてしまえば、もう二度とセラの気持ちは、手に入らないと。
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