恋した鬼姫
竹林の中、セラ達は忍者に囲まれてしまった。

セラの前では、猿が短剣を持ち、セラの後ろでは、犬が牙をむき出しにして、唸っていた。

喜助は、物音を立てずに、フッとセラの目の前から、消えた。途端に、物凄い風の竜巻が起こり、沢山の葉が舞っていた。
セラは、微かにしか目を開けることが出来なかった。
セラの耳には、あちこちで鉄のような物がぶつかり、擦れあう音が聞こえていた。喜助と忍者は、見えない速度で戦っていた。そして、ドサドサと何人もの忍者達が落ちる音が聞こえた。

その時。
セラと猿の目の前に、血塗れになった忍者が襲ってきた。
猿は、忍者の肩に飛び乗ると、素早く短剣を横に滑らせた。喉は切れ、忍者はセラの目の前に倒れた。
「キャッ!」セラは、思わず叫び、あまりの恐ろしさに両手で目をふさいだ。

その間にも、セラの背中の方では犬が戦っていた。
向かってきた忍者に犬は、体を回転させながら、尻尾に忍ばせていた無数の毒針を飛ばした。
無数の毒針は、忍者の体に刺さったと思ったら、忍者はもがき苦しむと、動かなくなった。

セラは、また両手で目をふさいでいた。急にセラは体を捕まれたと思ったら、空高く飛んだ。
「いやっ!離してください!」セラがそう言って見ると、セラを担いだのは喜助だった。喜助は、肩から血を流していたが、決してセラを離さずに逃げた。

「ここまで来れば、大丈夫だろ。」
岩場に囲まれた所で、喜助はセラを降ろした。

「喜助さん!怪我をなさってます!」セラは、そう言うと着物の布を破り、喜助の肩に巻いた。
犬も猿も鳩も心配そうに、喜助に寄り添っていた。

セラは、不安そうな顔をしていた。喜助は、セラに無邪気な笑顔を向けた。
「心配するな。怪我なんていつものことだ。それより、怖くはなかったか?」
「…少し怖かったです。でも、それよりも喜助さんに感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございます。」
喜助は、それを聞くといつも以上に無邪気な笑顔になった。

日も暮れてきて、岩場でセラ達は野宿をすることになった。
焚き火の中、セラの寝顔を喜助は、見つめていた。喜助の心の中でセラへの思いが芽生えていった。
< 39 / 71 >

この作品をシェア

pagetop