恋した鬼姫
せらが本を探していると、通り道のど真ん中で胡座をしている男の子がいた。
制服姿なので同じ生徒だが、金髪頭をしていた。

せらは、直感で関わらない方がいいと思って、静かに反対方向へ行こうとした。

しかし、男の子が持っていた本が気になり、然り気無く見ると、
「あっ!」せらは、思わず声を出した。

なんとせらが探していた[恋した鬼姫]だった。

男の子は、パッと振り向いた。

せらは、男の子を見た瞬間、ドキッとした。
その男の子の顔を見ただけで、胸が締め付けられる気持ちになった。

「す、すみません。」せらは顔を赤らめて慌てて、その場から立ち去った。



せらは、急いで家に帰り自分の部屋へ行きベットに倒れ込んだ。
それでも、図書室で会った男の子の顔が、頭から離れずドキドキしていた。

せらは、気持ちが押さえきれず愛子に電話した。
愛子は、せらの尋常じゃない興奮に心配して、家の近くにある公園で待ち合わせする事を告げた。

愛子が公園に着いた頃には、先にせらが公園に来ていた。
せらはブランコに座り三回ほどため息をついていた。

「そんなにため息ついてると幸せ逃げちゃうよ。」
せらは、顔を上げると愛子が立っていた。声をかけられるまで、愛子が公園に辿り着いていた事に、せらは気づかなかった。

「愛子、私…どうしちゃったんだろ?」
突然のせらの発言に、愛子は意味が分からなかった。

「何かあったの?」
愛子は心配そうに、せらの横にあるブランコに座った。

「学校の図書室で、本を探してたんだけど、私がずっと探してた本を読んでた人がいたの。」

「えっ?!その本って前から探していたのでしょ?」
愛子は、長年せらと一緒にいるので、せらが探している本を知っていた。

「ん?でも、なんで嬉しそうじゃないの?」愛子は、疑問に思った。

「…その本を見てた人って男の子で、…たぶん先輩だと思うんだけど…その人の顔を見た時からずっとドキドキが止まらないの。」

せらは、恥ずかしそうに下を向いて足で砂をいじり始めた。

愛子の顔は、まるでスロモーションのように、心配そうな顔から満面の笑顔に変わった。
「マジで?!それって初恋じゃん!初めて本以外に興味が出たのね。」
愛子は、大笑いをした。
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