恋した鬼姫
「えっ??あのトラ先輩?!」せらは、激しく動揺した。

せらの呼びかけにも、トラは答えず黙ったまませらを抱きしめた。

クシュン。
せらのくしゃみでトラは、抱きしめていた腕の力を弱めた。

「ごめん、濡れたままだと風邪をひくな。」
トラは、そう言うとせらを家まで送った。

トラは、せらを送っている間も難しい顔をして黙り込んでいた。せらも言葉が見つからないせいか黙ったままでいた。

せらの家の前に着くとトラは口を開いた。
「何も覚えてないか?」

せらは、トラの言っている意味がよくわからなかった。

せらが困った顔をしていると、トラは少し悲しそうな顔をした。

せらは、そんなトラを見るなりオロオロとしていた。
そんなせらの姿を見てトラは、苦笑いをした顔でせらに優しく言った。

「明日、学校が終わって放課後に図書室に来れる?」

せらは、少し驚いた。嬉しい気持ちと愛子の顔も頭に浮かび、どうしたらいいのか答えに困った。

「まぁ、待ってるから。」
トラは、そう言うと帰っていった。

せらは、まるで今までの時間が夢のようでトラが見えなくなるまで、トラの背中を見つめた。

せらが家に入ろうとした時、せらの視界に愛子の姿が見えた。

トラが帰っていった反対方向の道路に愛子は傘をさし立ち止まったまま、せらを見ていた。

せらは、今までを愛子に見られていたことに気づいた。

愛子は、せらを睨み付ける瞳で泣いていた。

「愛子!違うの。たまたま送ってもらっただけなの。」
せらは、慌てて愛子に言った。

愛子は、せらを無視するように黙ったまま反対方向へ歩いていった。

せらは、もうどうしたらいいかわからなかった。愛子のために諦めるということが出来ないくらいにトラへの想いは膨らんでいた。
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