恋した鬼姫
「はぁ〜…。」
せらは、本を読み終えると幸せそうなため息をついた。
そして、トラがいたことに今更思いだし慌てて謝った。
「ごめんなさい!つい本に集中してしまって!」

トラは、怒ることもなく逆に笑っていた。

せらは、恥ずかしくなり持っていた本で顔を隠した。

トラは、手を差しのばし本を下に下げ隠れていたせらの顔を見るなり、除き込むように顔を近づけた。

せらは、トラの顔が近すぎて余計に顔を赤らめた。

恥ずかしそうにしているせらが余りに可愛く思いトラはもっとせらに顔を近づけた。

せらは、頭の中が真っ白になるくらいにトラの瞳に吸い込まれるようにトラを見つめた。

トラもせらを見つめたまま、息がかかるくらい近づいたと思ったら、そのままゆっくりとトラの唇がせらの唇に触れた。

せらは、唇から全身に伝わるくらいに体がしびれる感覚になり、心臓の音を高鳴らせた。

二人は、時が止まったように長いキスをした。

二人の唇が離れ、せらが目を開けると目の前にいたトラの目から涙が溢れていた。
せらは、驚いた。

しかし、トラは悲しそうではなく、嬉しそうに涙を流していた。

「トラ先輩、どうしたんですか?」
せらは、そんなトラが不思議で質問をした。

「1000年待ったかいがあったなって思って、気持ちが高ぶっただけだ。」

せらは、キョトンとしていた。

「思い出せないか、セラ。俺達は前世がこの本に書かれていることそのままなんだ。俺も記憶が残像のようにしか思い出せないが、それでもセラを見るたんびに愛しくて仕方ない。物凄く会いたかった気持ちが込み上げてきた。」
せらは、トラの言っていることが信じれないはずなのに、自分もトラと初めて出会った時に懐かしく愛しい気持ちが込み上げていたことは確かだった。

「ごめんなさい。何も思い出せないんです。でも、私もトラ先輩に初めて出会った時に前から知っているかのように好きになっていました。」
せらは、泣きながら言った。

「それだけで充分だ。またセラと恋が出来るだけで俺は、今物凄く幸せだ。」トラは、嬉しそうに言った。

しかし、せらはなぜか余り嬉しそうではない顔をしていた。
両思いにはなれたが、愛子のことが気がかりで仕方なかった。
< 63 / 71 >

この作品をシェア

pagetop