問題山積み
エンゲージリング
人生には、何の前触れもなしにドラマみたいなワンシーンが投下される。
そう、人事のように思った。


「沙枝(さえ)、俺と結婚して下さい!」


お台場にドライブに行った帰り道、突然路肩に車を止めたと思ったら、大地(だいち)が助手席の私の方を向いてそんなことを言った。
車内には、大地の好きなバンドの音楽が、スロウテンポで流れている。
目の前にはライトアップされた東京タワー。
仕組まれた典型的なシチュエーションに、私は純粋に嬉しい半面、笑いそうになってしまった。


「こ、これっ!受け取って欲しい!」


吃りながら、挙動不審にジャケットのポケットから取り出されたのは、ピンクのリボンがかかった小さな箱。
そのリボンを解かずとも、中身の察しはつく。
手を伸ばしてそれを受け取ると、無機質なはずの箱が温かい。
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