イケメン大奥

「結月さん」

「はい」

ミナミのおばちゃんは、仁王立ちであたしを見つめている。業務用エプロンをぎゅっと握りしめて立ち尽くす姿に後ずさりしそうになる。


怖……いです。

口を開くけれど声にならない。おばちゃんの大好きな彼を独り占めしてごめんなさい。でもね、これは、たまたま……と弁解しそうになったとき。



「ありがとうございます、いつも色々と教えて下さる方ですね!」

あたしを庇うように一歩進んで、恭平が自らおばちゃんに手を差し出した。
握手をするふたり。なんか展開がよく分からないのだけれども……。


「先日勧めてくださったサンマ! やっぱり秋はサンマですね、焼いて大根おろしと一緒に食べました。あと、姪っ子が魚苦手なんですけど、刻んで魚ハンバーグにしたら食べてくれました!」

「あああら、そう。それは何よりだったわね!」

そうか。

恭平さんは、あたしをフォローしてくれたんだ。



「お昼どきも接客なんて、お仕事たいへんですね」

恭平の言葉に、おばちゃん、満面の笑み。まあねぇ、なんて身体を揺らして全身で笑っている。

ご機嫌なうちに、おいとましよう。



「あの、お昼いってきま~す」

ふたりが陽気に話している間をみて、あたしは従業員の控室に急ぐ。


助かった……、恭平さんに救われた。でも彼は気が利くんだな。何をしている人なんだろう? 学生だと思っていたけれど、社会人なんだろうか。


控室のドアを閉めて、あたしは今さっき見た恭平のはにかんだような、たれ目の笑顔を思い出した。それにしても、指輪は姪っ子さんがさせたものだったんだ。


ああ、よかった、本当に良かった。
あたしにも。

あたしにも、チャンスがまだあるんだ!!!



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