イケメン大奥

「上様?」

レイがあたしの様子を気遣ってくれている。

「大丈夫よ、レイ」

ハルは椅子に座り、微動だにしない。何処か遠くに居るみたい。


「ハル、話してほしいの。……あたしと同じように、

 この大奥へ繰り返し来た人の事を」

呼びかけてみる。


微動だにしなかった表情が、
静かな水面に水滴が滴り落ちるみたいに、

ゆっくりとほころんでいく。

ハルの瞳は哀しく、でも表情は優しく、

あたしはハルの唇が語り始めてくれるのを待つ。



「わたくしが大奥に初めて来たのは、

 35歳の時でありました……」


ハルが語り始めた話はせつない愛の話で、

でもあたしにとって重要な話だった。


大奥を行き来する事の弊害を

あたしに教えてくれるものだったから。


あたしたちは、

ジャスミンとレモンの薫りの中にあって、
哀しいハルの愛を一身に受けた女性の話に

耳をすませたの。

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