君を忘れない。



人だかりから離れた所まで来た途端、その人はパッと私の手を離した。



「誰かに会いに来たのか?」



その時気が付いた。



「…あ!」



帽子を深くかぶっていて、顔があまり見えなかったせいもあって、今まで気が付かなかった。



つい先日、泣いていた私にハンカチをくれた人。



「あ、あの時は、本当にありがとうございました。」



私が頭を下げると、



「礼を言われるようなことは、なにもしていない。」



と、やっぱり無表情で言った。



また会えるなど思ってもいなくて。



それもまた、助けてくれるなんて。



不意打ちに私の胸は、なぜだかドキドキしていた。



「私にとっては、間違いなくお礼を言うべき出来事でありました。」



私がそう言っても、彼はやはり表情を変えなかったけど、決して冷たい人じゃないってこと知ってる。




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