君を忘れない。
「…いいえ。お願いします。」
私は雨竜さんの背中に微笑んだ。
この人を、もっと知りたい。
いろんな顔を見てみたい。
もっと、お話ししたい。
そんなことを思いながら、私は彼の背中を追うのだった。
道端の桜草が枯れ始める。
戦争がどんなものなのか、まだなにも分かってはいなかった。
知るすべなどなかった。
小さな花が揺れている、この世界のどこかで。
人と人とが殺し合いをしている。
そんな現実を信じきれないまま、夏が始まろうとしていた。