君を忘れない。
突然のことに驚いた私は、固まってしまった。
見かねた雨竜さんの拳がそっと離れる。
「ここは互いが折れよう。一方が謝るのはおかしい。」
私から視線をそらした雨竜さんは、気まずそうにそう言った。
「だから君が持つなら、俺が持つのは当たり前だ。」
雨竜さんは、拾い上げた紙束や本の大半を持つと、そのまま歩き出した。
「あの、やっぱり…!」
でも、全く関係のない人を、巻き込んでもいいものなのだろうか。
いいかけた言葉は、雨竜さんの言葉によって遮られた。
「君は、二度も俺に恥を掻かすのか。」
立ち止まるだけで、雨竜さんはこっちを振り返ることなく言った。
……あ。
きっと、初めて会った時の事を言っているのだ。
泣いていた私に、駆けつけてくれたこと。
ぶっきらぼうな言い方だけど、本当はとってもとっても優しい方。
出会ったばかりなのに、不器用な優しさがたくさん伝わってくるのはなぜだろう。