君を忘れない。
桜並木のずっと向こう、こちらに向かって走ってくる人がいた。
私は、立ち尽くしたままでいた。
それが確信に変わってもまだ、動けなかった。
どんどん大きくなるその人は、私から一定の距離を保った所で足を止めた。
息を切らした一平さんだった。
「一平さん…」
私は、そう言うのがやっとだった。
驚き、安堵、久々に姿を見れた喜びといろんな感情が入り交じり、言葉がうまく出てこなかった。
…無事だった。
それでも、大切な人が無事でいてくれたことが、やはりなによりも嬉しくて、堪えきれない涙が溢れ出た。
「一平さん…!」
涙が次から次へと頬を伝う。
頭なんて働かない。
ただ夢中に、彼の名を呼んだ。
「一平さん、一平さん、一平さ…」
一平さんは何もいう事なく、スタスタと私に近寄り、勢いよく引き寄せた。
私の頭に手を回し、自分の胸に私の顔を押し付けるようにして、抱き締めた。