君を忘れない。
寒さは次第に厳しさを増し、紅葉した葉っぱはすっかり地面に落ちてしまった。
寒々しい木々の姿が、冬の訪れを伝えていた。
――――1944年12月。
この季節の水仕事は辛く、手にはひび割れや皹(あかぎれ)ができてしまっていた。
「お前、その手…」
お兄ちゃんの荷物がさらに出てきたと言うことで、その日私は大学の研究室にいた。
不意に私の手元に目をやった一平さんが、思わずそう口を開いた。
「え?」
「…いや、ひどく荒れているな。」
「あぁ、これですか。冬場は毎年こうなってしまって。」
苦笑いをする私を、一平さんは切ない顔で見つめた。
「大丈夫ですよ?桜が咲く頃には、治ります。」
「嘘を言え。」
「え?」
「夏場もお前の手は、ボロボロだった。」
やっぱり、一平さんには敵わない。
嘘なんて通用しないのだ。
特に、怪我や体調に関しては、私自身よりも先に気づいてしまう。
心配かけまいと下手に嘘をついても、一平さんは機嫌を悪くするだけだろう。