木漏れ日から見詰めて
 距離的には日帰りで帰ることが可能だった。

 田園風景が広がる田舎町。

 駅前の商店街はシャッターを下ろしている店の方が多かった。

 あらかじめインターネットから検索した地図で菱沼先生が赴任した高校と紺野さんの住んでいるアパートが隣り合わせだということと路線バスが『T高校前』に停まることも調べ済み。

 しかし、時刻表を確認するとあと2時間経たないと駅前からバスが出発しないことがわかった。

 14万分の1の地図のスケール・バーに指を当てて駅から紺野さんのアパートまで計測すると約7キロ。

 タクシーを使えばもしものときにお金の余裕がなくなる。

 周囲を見渡し、運よく『貸自転車』という看板が目に入った。

 1時間500円という割高な設定に驚きながら『石橋サイクル⑫番』のプレートが前方のカゴに貼り付けてある自転車を漕いだ。

 所々錆びて使い物にならなくなっている洗濯機や冷蔵庫が敷地内に設置されているアパートを見たとき、愕然とした。

 ある程度予想はしていたが、紺野さんの生活環境は劣悪だ。

「……203号室」
 
 
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