私は貴方に、叶わない恋をした。


ドアの前で立ち止まっていると、さっきまで奥から聞こえていた声が、近くで聞こえた。

「あ・・・」


目の前に現れたのは、女の人。
学校の先生じゃない。


「生徒さんね。あなた!生徒さんが来てるわよ」

やっぱり、先生の奥さんだ。

「・・・っ」

目を合わせていられなくなり、俯いた。

「あぁ。永井か、待ってたぞ」

奥さんに呼ばれ、先生の足音が近付いてくる。

「永井さんって言うのね。いつも主人がお世話になってます」

「おい、俺がお世話してる側なんだぞ」

「あら、先生だからって生徒に迷惑かけてないわけじゃないんでしょ?こんな主人ですが、よろしくね」

「やめろって」

頭上から聞こえる、夫婦の会話。


・・・やめて。


きゅっと、唇を噤んだ。


「じゃあ、帰るわ。またね、永井さん」


「着替え、ありがとな。気を付けて帰れよ」



奥さんが準備室から出ていくまで、顔を上げることができなかった。


先生と2ショットの姿を見たくなかったから。

「やっと帰ったか。あ・・永井、さっそくだが・・・」


本当は、会話だって聞きたくなかったのにー・・・



目は伏せれても、耳は閉じれなかった。


耳まで塞いだら、この思いがバレてしまうような気がしてー・・・









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