彼は、理想の tall man~first season~

『あ、敦さん、遅くにごめんねー』

「今更気にすんな」


尚輝のアハハなんて笑った声が最後に漏れ聞こえ。

そして、敦君は携帯をパタンと閉じた。


っていうか、私――寝たふりとか、した方がいいのかな?

自分がどういう行動を取ったら正解なのか、気持ちだけあたふたしていた。


でも、敦君がフッと息を吐いた後――

「相変わらず手強いな」

そんな呟きが聞こえて来て、私は耳を疑った。


電話の相手は尚輝で。

尚輝と通話を終えてからそんなことを言うってことは、尚輝が手強いってこと?

敦君の独り言は、私には理解し難く――ただジッと敦君の背中を見続けた。


相変わらず手強いって――どういう意味なんだろう?


「さてと、寝ようか」

なにもなかったようにそう言って、元の位置に戻る敦君。

私は、邪魔にならないように、敦君が体勢を変化させる毎に、臨機応変に自分の体の位置をずらした。


言葉の意味を知りたいのなら、聞けばいいだけのことなんだけど――。

容易くは聞けなくて。

結局はタイミングを見失って、そのままになる。


好きだって自覚症状はある。

けど――。
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