彼は、理想の tall man~first season~
お金は遣わないと世の中が回らないなんて言われてしまい、もうなにも言えなかった。
「これで、また楽しみがひとつ増えたんじゃない?」
「父には、本当に感謝ですね」
実家で練習するみたいに、思い切りは弾けないのが、ちょっと残念なんだけど。
あるのとないのじゃ大違いだ。
それに、車の資金も半分以上貰ってしまったし。
経済事情は本当に助かってしまった。
「美紗ちゃん、月曜からは、仕事は忙しそう?」
「――え? あ、そうでもないかと。あの、敦君は?」
「昨日でどうにか整理がついたけど、明日からの状況でどうかな」
ふんふんと頷いた私に、今研修中の社員がひとりいて――と、昨日の尚輝から聞いた話とかぶる話をし始めた。
「尚輝から何か聞いてる?」
「社長のひとり娘さんが、研修中だって」
「表向きは研修なんだけど――あれは、社内の雰囲気や課の様子を、探ってる感じ」
「――え?」
だからって、下手に手抜きも出来ない状況で、自分の仕事が捗らない――と。
そう言って、少し疲れた表情を見せた敦君。
でも、明日からは小川にバトンタッチだから気が楽になるとも言って――。