償いノ真夏─Lost Child─


「俺も、何となくこの村が変わってることは分かる。でも、おばあちゃんの言うことは聞けない。──俺はもう一度、必ず夜叉淵に帰ってくるから」

「真郷!お前は──!」


祖母は目を見開いた。常に淡々としていた口調が僅かに崩れる。


「おばあちゃんの言うこと、全然聞けなくてごめん。でも、約束したんだ」

「約束……そうかい、約束かい」

祖母は諦めたような口振りで、肩を落とす。

「あんたの頑固なとこは、誰に似たのかねぇ」

ぽつりと呟くと、祖母は微笑んだ。

「……待ってるよ、真郷」

肯定といえるその言葉に、真郷は力強く頷いた。

「ありがとう、おばあちゃん」

「礼はいいから、早くお行き。バスが出てしまうよ」

「……うん。それじゃ、元気でね」

祖母に促され、真郷は部屋を後にする。

一人その場に残った祖母は、声をあげることもなくただ静かに、一筋の涙を流した。


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