償いノ真夏─Lost Child─

忌まわしい真夏の悪夢だ。
きっとそうだ。
真郷くんはきっと迎えにきてくれる。きっと──。

小夜子は村長の家の離れにある小さな座敷に囚われていた。見張りこそ居ないものの、そこは牢屋にひとしい場所であった。

小さな体を丸くして、小夜子はただ震えていた。
突然、自分がヒトではなくなったような気がしたのだ。

父の謀略で祭りの巫女になってしまった彼女だが、すでに夜叉の花嫁の印である奇妙な痣は体全体に広がっているし、今まで彼女を卑しいものとして扱ってきた村人たちが彼女にかしずくのだ。これが恐ろしいはずはない。

巫女はただ形だけのもの……祭りで舞いさえすればお役御免の存在だと思っていた。だが、それだけの存在にここまでの扱いをするようには思えない。きっと、まだ自分の知らない役目があるのだ。

「美那江お姉ちゃん……」


堀川美那江。それは、幼い彼女の世話を焼いてくれた村長の一人娘。
そして……五年前の、祭りの巫女。

彼女はあの祭りの後、いったいどこへ行ってしまったのだろう。美しく優しかった憧れの女性は、あの日を境に村から姿を消した。

県外に住む恋人と駆け落ちしたという噂も聞くが、なんとなく小夜子には信じられなかった。

考えれば考えるほど、不安は募るばかりだ。

それに、禊といっても特別なにかするわけではない。ただ一日中この部屋に拘束され、決まった時間になると村長の妻が訪れて舞の稽古をする。人に会うのはそれだけで、食事は日に三回、小さな窓から顔も知らない誰かによって運ばれてくる。これでは気がおかしくなりそうだった。



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