償いノ真夏─Lost Child─
それから数日のうちに、笠原りなが失踪したという噂をきいた。
村人たちは皆〝神隠し〟の所為だと言った。それで多くは納得した。納得いかないのは笠原の両親で、彼らは必死になって娘を捜索した。だが、誰も協力することも、騒ぎ立てることもなかった。
──同じなのだ。
この村で人が居なくなるのは珍しいことではない。そして、それは神隠しの一言で済まされ、闇へと葬られていく。最初から存在しなかったように。
「仕方がない。あの娘は小夜子様を虐げていた。夜叉様の怒りに触れたのだ」
そんなことを言う者も居た。夏哉は、そんな村人たちの様子にほくそ笑んだ。
──なんという好都合だろう。
この村は、もっとも神の領域に近い村。それを疑わない者たちの、なんと愚かしく、愉快なことだろう。その神の牙が己に向くとは夢にも思っていないのだ。
夏哉は鱗沼の水面に向かって石を投げた。ぽちゃんと音を立て、石は水底に吸い込まれる。まるで、あの女の遺体を沈めた時のように。
未だに、夏哉に罪の意識は無かった。
ただ、死体が浮かび上がってくるのではないかという心配だけだ。もちろん、この底なしの沼に沈めば、生きているものでも浮かび上がることは不可能だが。
「お前たちが姉さんにしたことのほうが……よほど酷いんだ」
そう呟いて、再び足元の石を拾おうとした時だった。
「夏哉」
名前をよばれて、一瞬背筋がぞくりとした。
「っ!」
勢いよく振り返ると、背後の茂みから姿を覗かせていたのは、夏哉がもっとも嫌悪する人間の一人だった。
「親父……」
夏哉は、数メートル先に立つ男を殺気のこもった瞳で睨んだ。