償いノ真夏─Lost Child─





少年は、天井の染みに向かって大きな溜め息をついた。

「深見って言われても実感ないや。元々は月岡(ツキオカ)だし」

そう言えば、受話器から父の苦笑が聴こえた。

「すまないな、真郷。辛い思いをさせて……」

「謝らないでよ。父さんは悪くないから。それに、今は今で楽しいしさ。何ていうか、充実してる感じ」

「なんだ、そりゃあ」

「ほら、東京じゃいつも時間に追われてるのが、こっちだと一日がゆっくり過ぎてくから」

まるで、時間が止まっているように。

真郷は受話器を握りしめた。


「──ごめん、父さん。そろそろ寝なきゃ。また電話するから。うん、おやすみ」


真郷は父との電話を切るとき、いつもボタンを押すのを躊躇う。

やはり自分も子供なのだと、この時ばかりは思わずにいられない。

< 32 / 298 >

この作品をシェア

pagetop