償いノ真夏─Lost Child─

夏哉はタオルで仔犬を包むと、身体を擦ってやる。


「──捨て犬?」

「たぶん。でも家には連れてけないじゃん。でも放っといたら死んじゃうだろ、コイツ」

どうやら夏哉は、この雨の中、犬が濡れないように庇っていたらしい。

真郷は、その仔犬に同情した。

自分の力では生きていけない弱い生き物。

誰からも見捨てられ、それによって異端視される孤独な生き物。


「どうしよう……」


困り果てている小夜子に、俯いて黙ったままの夏哉。

「……夏哉くん、その仔犬、俺に預けてくれないかな」

「──あんたに?」

顔を上げた夏哉は心底驚いたようだった。

「俺の家は深見屋敷って呼ばれてるくらいだから、そいつが大きくなっても心配いらないし。かなり衰弱してるから、早く暖めてやらないと危ないみたいだ」

「……!」


真郷の真剣さに圧され、夏哉は仔犬を差し出した。


「……頼みます、深見さん」

「うん。──朝霧さん、傘とタオル、借りてくね」


それだけ言って、真郷は家に向かって駆け出した。

< 44 / 298 >

この作品をシェア

pagetop