償いノ真夏─Lost Child─


嫌な汗が、全身を包む。

そんな時、玄関の曇りガラスに影が映った。フミ子は気付いていないようだ。


「ただいまぁ」


少女のように間延びした声が木霊する。

つばの広い、洒落たデザインの白い帽子が、この暑さの中にあっても涼しげだった。


「お嬢さん、お帰りなさい」

フミ子が出迎えると、母は帽子を手渡した。

「やっぱり外は暑いわね。ちょっと歩いただけで、汗が止まらないわ」


そうは言うものの、母はやはり、涼しげな顔を崩さない。

真郷は母を凝視していた。

訊かなければ、訊かなければいけない、と鼓動が速まる。


< 63 / 298 >

この作品をシェア

pagetop