償いノ真夏─Lost Child─

九郎は賢く、手間を掛けて躾をせずとも色んな事を覚えた。

例えば無駄吠えは全くと言って良いほどしないし、トイレも決まった場所にしかしない。

手が掛からなすぎて、真郷の方が驚いたほどだ。

「迎えに来てくれたのか?ありがとな」


真郷は九郎を抱き上げると、家の中へ入った。

相変わらず、静かなものだ。

「ただいま」


声を掛けると、奥の部屋から母が顔を覗かせた。

「真郷……おかえり。遅かったのね」

やんわり微笑む母に、真郷は少し気まずく感じる。

「うん。……村の中、案内してもらってたから」

「そう……」


そう言って視線を外した母に、真郷はあることを思い出した。

< 80 / 298 >

この作品をシェア

pagetop