償いノ真夏─Lost Child─


「そういえばさ、母さんは、御夜叉祭りに行ったことある?」

御夜叉祭り、という単語に母は一瞬、その顔を歪めた気がする。

それから母はハッとしたように、笑みで取り繕った。

「そうね、この村に住んでる人は、誰でも行ったことあるわね。でもどうして?」

「友達に誘われたから。巫女さんの舞が綺麗なんでしょ?」

「ええ。……綺麗ね。だって、夜叉さまが選ぶんですもの……」


母は真郷を直視せず、独り言のように呟いた。

そんな態度を不審に感じるものの、真郷はそれ以上の追求を避けた。

なぜなら、腕の中でおとなしくしていた九郎が耳を立て、母を威嚇するように唸り始めたからだ。

家族に対し、普段そんな態度を見せない九郎が、急にそうした意味。


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