償いノ真夏─Lost Child─

この静かで平和な村、夜叉淵村に越してきてから、もう二年が経った。

十五歳になった今、父と約束したその日が来るのは近い未来の話だろう。

「真郷くん、考え事?」

ひょい、と横から顔を出したのは小夜子だった。

彼女はまた大人びて、髪は前よりも少し伸びただろうか。

ただ、その清楚な美しさは出会った頃から変わらない。

「小夜子……別に大したことじゃないよ。何か用?」

「うん。私、今日は委員会があるから、ナツと先に帰ってね」

「待ってようか?」

「ありがとう。でも遅くなると九郎ちゃんが可哀想だから、いいよ」

九郎、というのは真郷の愛犬だが、瀕死で拾った当時と違い、今では雄々しく逞しい成犬となった。

縄脱けという特技を身に付け、真郷の帰りが遅いと迎えに来たりする。

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