亡國の孤城 『心の色』(外伝)
「………」
人をマジマジと見るのは、不躾な行為かもしれないが。廊下の先に独り佇むそのシルエットを、クロエはぼんやりと見詰めた。
中肉中背の背丈は、ほぼ自分と同じくらいだろうか。
一つに括られたウエーブの掛かった長い白髪に、同じくらい白い…いや、青白い不健康そうな色白の肌。きちんと着こなした黒い衣服は上層部のみが着る事を許される軍服で、その男が騎士団の中でも高い身分である事を現していた。
紳士の如き佇まいだが、腰にぶら下げた長い剣の存在が一般人のそれとは違う空気を醸し出している。
…そして何よりもクロエの意識が向かうのは……男の、奇妙な存在感だった。
…亡霊。
そう表現してもいいくらい彼の姿は妙に曖昧に映り、そして空気の様なものなのに。………この、確かにそこにいるという存在感の大きさは何なのだろうか。
薄暗い暗雲の元に佇む男のシルエットは、まるで暗闇に溶け込んでいるかのようだ。微動だにせず、クロエと同様…こちらをじっと見詰めている。
垂れた前髪でその表情は分からないが、突き刺す様な視線だけは、恐ろしいくらいにひしひしと感じていた。
(………)
ここでお互いに見詰め合っていても仕方ない。クロエは男の視線を避けるように足元に目をやると、そのまま前へ歩き出した。
クロエが歩き出すと、少しの間を置いて白髪の男もゆっくりと歩き出した。互いに廊下の真ん中に差しかかろうとした辺り。
両者の距離が数メートルという所で……不意に、男が足を止めた。
男の奇異な動きに思わず立ち止まってしまったクロエが顔を上げれば、先ほどよりもより近く、鮮明に男の姿を瞳は映した。
妙に冷たさを感じる男の無表情が、クロエをじっと見詰め…小さく首を傾げていく。
「………何、か…?」
例えようの無い圧迫感に耐えてようやく絞り出した自分の声が、なんだか情けなく思えた。自分は何を緊張しているのか知らないけれども…。
クロエの声に、男は数秒の間を置いてゆっくりと首を左右に振って見せた。肩耳に嵌めた古そうな銀のピアスが、彼の動きに合わせて鈍い光沢を放つ。