Adagio
「合唱のテストなら、ここじゃなくて第2音楽室の方だと思うけど」
だから早くそっちに行ってくれ。
そう願っているにも関わらず、そいつは大げさにリアクションをする。
「あ、え?ここ第1音楽室?そっか、第2音楽室って3階だっけ。1階余計に階段上っちゃったよ」
いいから、早く俺の視界から去れよ!
自分から帰れば早いのにそうしなかったのは、もはや意地だった。
こんなケバい奴に負けて帰るのは癪だ。
「ありがとね。じゃあそっちに行くよ」
ようやく行ってくれそうでホッと息をついた瞬間、そいつがくるりとこっちを振り向いた。
印象の強すぎる瞳とがっちり視線が交わる。
「ね、さっきの演奏ってアンタがやってたの?」
「…そう、だけど」