Adagio
ふぅん、と生意気に唇を尖らせるそいつ。
その仕種がかわいく映ると思ったら大間違いだ。
「すごく上手かった」
「はぁ…」
そりゃあ普通科と違って音楽科はそれに生涯を賭けてるんだから、そう言ってもらえないと困る。
当たり前だと言いたい俺に、そいつはさらに続けた。
「でも、かなりつまんない演奏だったね?」
「な…っ!」
これにはさすがにカチンときた。
今すぐ胸倉を掴み上げたい衝動に駆られたが、ギリギリで思い留まる。
たとえこんな化け物みたいな奴でも、女に暴力をふるって手を痛める趣味は無い。