Adagio
あまり見ていても怒られるのでわざとらしく視線を逸らすと、奏はベンチに座る俺の横に堂々と腰を下ろした。
もうすぐ夏だというのに奏の体は小刻みに震えていて、ひどく頼りない。
「何かあったのか」
もう一度同じ質問を投げかけると、彼女は静かに口を開いた。
いつもの騒々しさが嘘のように。
「タカとは2年になってすぐ付き合い始めたんだけど…」
2年になってすぐということは、まだ3カ月も経っていないぐらいだ。
「なんか、やたらとデートしたがる奴でさ。それならまだよかったんだよ?だってデートって楽しいじゃん」
俺はピアノに打ち込むばかりで恋人なんていたことがないけれど、恋人と一緒に出かけるのだから嫌なものではないだろう。
その頻度が頻繁すぎるというのも、考えものだが。
「アタシを家に呼んでやたらと迫ってくっからさ。それをずっと拒否ってたらなんか、お気に召さなかったみたいで!そんで破局っていうオチ」