Adagio


放課後にたどり着くまでにかかった時間は、早いのか遅いのかよくわからない。

いつの間にか来ていたのかという気持ちと、やっとここまで来たかという両方の気持ちがある。


だけど放課後が楽しみなことははっきりとわかった。

頬が紅潮するような興奮と共に、全身に力強く巡る血流。
そのおかげで指先まで火照るようだった。


「駒田!」

急いで帰り支度をして駒田の席まで行くと、まだ配布物もしまっていなかった駒田は目を丸くしていた。

一分一秒だって長く練習したい。

あの地の底まで震わせるようなチューバの咆哮に自分のピアノの歌声がどう重なるのか試してみたい。


俺の焦りが伝わったのか、駒田も慌てた様子でプリントを畳まないままぐしゃっとカバンに詰め込んだ。

第1音楽室までの道のりは短いものなのに走らないと気が済まなくて。


俺たちは2人揃って、バカみたいに廊下を駆け足で走り抜けた。


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