Adagio
駒田が持ってきた楽譜はパウル・ヒンデミットの「バスチューバとピアノのためのソナタ」だった。
ヒンデミットは非常に多くのソナタを残しているから、俺も2人で合わせるならこれだろうと思っていた。
しかし…。
俺はもう一度駒田をじっくりと見る。
この重い楽器を支えてあんな重厚な音を出すほどの筋力があるとはとても思えない細い体。
あんなにしっかりと自立した音を出すとは想像もできないほど頼りない表情。
けれどそんなものが杞憂なことを俺は知っている。
「じゃあ足踏み4回で開始ってことで」
ピアノの斜め前でうれしそうに笑う駒田に、俺は小さく頷く。