Adagio
テンポがぶれることなく規則的にズンズンと響く重低音。
それに呼応するように、チューバとは対照的に滑らかに流れるピアノの高音。
チューバの音色は途中で消え、反対にピアノはどんどん勢いを増していく。
そしてまた消え、また現れの繰り返し。
駒田のチューバはまったく音が揺れることなく、しっかりとピアノの一音一音を支えてくれた。
それが弾きやすくて、楽しくて、頬がつい緩みそうになる。
ちらりと駒田の方を見ると、駒田も笑っていた。
部屋の四隅を突き抜けて廊下へ、外へ、音たちが溢れ出す。
こんな狭い所にいたくない。
もっともっと外に出ていきたいって、そう言ってる。
静かに、軽やかに、大きく、小さく。
最後の音が跳ねあがり、俺たちの間を漂って消えた頃。
「へぇー、いいね」
背中から聞こえた声に別段驚くことは無かった。