Adagio
足踏みひとつ。
どうなるだろう。
楽しい演奏になるだろうか。
足踏みふたつ。
思えば誰かと一緒に練習をすることなんて今までなかった。
ピアノは個人競技だし、その必要も無いと思っていた。
足踏みみっつ。
この演奏が終わったら劇的に世界が変わったり、技術が向上したり、そんなことはないだろう。
だけど、それでも。
足踏みよっつ、振り下ろされる。
小さな何か、誰も気づかないような何か。
だけど俺だけは気付く何かが、変わる気がするんだ――。
胸の高鳴りは最高潮を迎えていた。
音楽が「音楽」と名付けられた所以を、10年以上ピアノを続けてきてようやく理解した。